「ケイ。私の名前はケイよ」
ケイ?
「フルネームは堀田蛍。『蛍』と書いてケイ。私ね、自分のことホタルって呼ばれるのが死ぬほど嫌なの。今度呼んだらまた蹴るよ」
やっぱホタルじゃねえか。
なにがケイだよ。
しかし不思議だ。交番で会ったホタルという女の子と目の前の女の子、えっとケイだっけ? この二人の間には共通点があり過ぎる。白猫のぬいぐるみ、蛍という名前、そして柔らかそうな頬――いったいどういうことなんだ?
「僕の名前は……尾瀬開。『尾瀬』と書いて……オセって読むんだ」
まだお腹が苦しかったが、僕はケイを見上げながら右手を差し伸べた。
自己紹介の握手。
それは体を起こすのを手伝ってほしいというゼスチャーも兼ねていた。
「仕方がないわね。開君だっけ? 今度ホタルって呼んだら承知しないからね」
渋々、右手を差し出すケイ。
「ああ、よろしく」
僕はケイの手を握り、しゃがんだまま軽く二、三回握手をする。そして、起き上がろうと握る手に力を込めて――
「隙あり!」
「ッ!」
僕はケイの体を引き寄せ、左手で猫のぬいぐるみに手を延ばす。
ザマあ見ろ、ぬいぐるみはもらったぜ。
しかし、ザマを見たのは僕の方だった。
「ぐえっ!」
あと少しというところで再び腹部に衝撃を感じる。
見ると、鳩尾にケイのブーツがのめり込んでいた。
「あんたバカじゃないの。どこの世界に隙ありって叫びながら攻撃する奴がいるのよ」
僕は苦しさのあまりケイの右手を離し、再びうずくまった。
猫のぬいぐるみを狙ったのには理由があった。
交番の少女とケイとの間にはあまりにも共通点がある。だから、ぬいぐるみを手にしてみたいと思ったのだ。
僕は交番の前で、あれによく似た猫のぬいぐるみを拾っている。実際に触ってみれば、あの時のぬいぐるみと同じかどうか分かるかもしれない。
というか、本当はケイに仕返ししてやりたかったんだけど。
蹴られたままでは僕の気持ちが収まらない。
しかしどうだろう、このザマは。女の子相手に情けない。
>つづく
ケイ?
「フルネームは堀田蛍。『蛍』と書いてケイ。私ね、自分のことホタルって呼ばれるのが死ぬほど嫌なの。今度呼んだらまた蹴るよ」
やっぱホタルじゃねえか。
なにがケイだよ。
しかし不思議だ。交番で会ったホタルという女の子と目の前の女の子、えっとケイだっけ? この二人の間には共通点があり過ぎる。白猫のぬいぐるみ、蛍という名前、そして柔らかそうな頬――いったいどういうことなんだ?
「僕の名前は……尾瀬開。『尾瀬』と書いて……オセって読むんだ」
まだお腹が苦しかったが、僕はケイを見上げながら右手を差し伸べた。
自己紹介の握手。
それは体を起こすのを手伝ってほしいというゼスチャーも兼ねていた。
「仕方がないわね。開君だっけ? 今度ホタルって呼んだら承知しないからね」
渋々、右手を差し出すケイ。
「ああ、よろしく」
僕はケイの手を握り、しゃがんだまま軽く二、三回握手をする。そして、起き上がろうと握る手に力を込めて――
「隙あり!」
「ッ!」
僕はケイの体を引き寄せ、左手で猫のぬいぐるみに手を延ばす。
ザマあ見ろ、ぬいぐるみはもらったぜ。
しかし、ザマを見たのは僕の方だった。
「ぐえっ!」
あと少しというところで再び腹部に衝撃を感じる。
見ると、鳩尾にケイのブーツがのめり込んでいた。
「あんたバカじゃないの。どこの世界に隙ありって叫びながら攻撃する奴がいるのよ」
僕は苦しさのあまりケイの右手を離し、再びうずくまった。
猫のぬいぐるみを狙ったのには理由があった。
交番の少女とケイとの間にはあまりにも共通点がある。だから、ぬいぐるみを手にしてみたいと思ったのだ。
僕は交番の前で、あれによく似た猫のぬいぐるみを拾っている。実際に触ってみれば、あの時のぬいぐるみと同じかどうか分かるかもしれない。
というか、本当はケイに仕返ししてやりたかったんだけど。
蹴られたままでは僕の気持ちが収まらない。
しかしどうだろう、このザマは。女の子相手に情けない。
>つづく