ぬいぐるみ少女K(完結)

はじめから読む (作:つとむュー
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はじめから読む

第1話 君は「地震?」と言った

「地震?」
 塾帰りのエレベーターの中。
 隣に立っている見知らぬ女の子が、ポツリとつぶやいた。
 足先の感覚に集中しながら、上目づかいにエレベーターの天井を見る。確かにエレベーターは動きながらカタカタと揺れていた。

「……ッ!」
 ドンと突き上げるような衝撃。
 僕と女の子は、咄嗟にエレベーターの手すりにつかまった。
 地震の揺れは次第に大きくなり、
「きゃっ!」
 ガタンという大きな音とともに、僕達が乗ったエレベーターは止まってしまった。
 そして電気が消える。
「げっ、停電」

 僕、尾瀬開は、女の子と一緒にエレベーターに閉じ込められてしまった――


 >つづく

第2話 君は「暗っ……」と言った

「暗っ……」
 三月の大震災の影響なのだろうか。
 九ヶ月経った今でも東京では割と大きな地震が起きている。
 今回の揺れもすぐに収まったが、停電はそのままだ。

 非常灯だけのエレベーターの内部は薄暗くて心細い。
 いや、薄暗いだけで済めばいい。電源を失ったエレベーターがこのまま落ちてしまわないか、僕はだんだんと心配になってきた。

 エレベーターに乗ったのは塾のある三階。
 塾の事務室のある五階に寄ろうとしたら、女の子と一緒になった。
 そして、エレベーターが動き出してすぐに地震が起きたような気がする。
 ということは、今僕がいる場所は四階くらいだろう。もしブレーキが効かなくなってエレベーターがこのまま落ちてしまったら、その高さから一階部分のコンクリートに叩き付けられることになる。

 マジかよ、勘弁してくれよ……。

 僕は祈るような気持ちで天井を見上げる。その時にちらりと横目で見た隣の女の子は、もっと不安そうな顔をしていた。エレベーターの中は、僕と彼女の二人きりだった。


 >つづく

第3話 君は「あっ!」と言った

「あっ!」
「おっ」
 いきなり電気が点いた。停電が復旧したようだ。

 よし、動け!

 願いを込める僕をよそに、エレベーターはちっとも動く気配がない。
 なんだよ、早くしてくれよ……。
 思っていたよりも早く電気が復旧してほっとしたのもつかの間、今度は狭い空間に閉じ込められた不安が僕を襲い始めた。
 そして、それに追い打ちをかけるアナウンスが。

『お客様、ご無事でしょうか? 
 こちらはエレベーターのメンテナンス室です。
 現在、他のビルでもエレベーターが停止しており、順次点検を行っています。
 大変申し訳ありませんが、復旧までしばらくお待ち下さい』

 おいおい、点検に時間がかかるのはわかるけど、頼むから早くここから出してくれよ……。
 僕は泣きごとを言いたくなる。

 今乗っているエレベーターは、十人くらい乗れば一杯になってしまうくらいのタイプ。
 現在乗っているのは二人だけで余裕があるとはいえ、狭い空間に閉じ込められているのは気持ちがいいものではない。それに停止時間が長引けば大変なことになりそうだ。二人が横になることなんてできそうもないし、トイレに行きたくなったら最悪だ。

 隣の女の子の不安はさらに大きかったようだ。
 彼女はエレベーターのドアに近づいて前かがみになると、スイッチ類の下のマイクに口を近づけた。


 >つづく

第4話 君は「コラッ!」と言った

「コラッ!」
 女の子は、マイクに向かってすごい剣幕で叫び始める。
「無事じゃないわよ、早く降ろしなさいよ」

 いや無事だろ? とりあえずは。
 早く降ろしてほしいのは賛同するけど。

 女の子の言葉を聞きながら、つい突っ込みを入れたくなる。
「メンテナンス室、なに黙ってんの? 点検より先にやることがあるでしょ! 私病気なんだから。ちょっと、聞こえてんの!? 何か言ったらどうなのよっ!」

 つんと突き出した女の子のお尻。
 叫び声と一緒に、フレアスカートがひらひらと揺れている。
 その様子はなかなか魅力的で、ついつい目を奪われてしまう。そのうち僕は、女の子の恰好が見事なモノクロであることに気がついた。
 エレベーターに乗った時は全然気にしていなかったが、彼女の服装はちょっと不思議だった。

 上から黒のキャスケット、黒縁メガネ、黒のコート、黒のフレアスカート、黒のタイツ、黒のブーツ……。

 つまり上から下まで見事に黒ずくめ。真っ黒カラスのような女の子が、スカートを揺らしながら怒りに身を任せている。
 そしてそんな彼女が手にしていたものに、さらに違和感を覚える。
 彼女のコーディネイトにまったく似合わないそれは――純白の猫のぬいぐるみだった。


 >つづく

第5話 君は「なによ」とつぶやいた

「なによ」
 一通り叫ぶと、女の子は捨て台詞を残して静かになった。
 手には、白い猫のぬいぐるみを握りしめたまま。

 でも、あれって……。
 そのぬいぐるみに見覚えがあった。
 猫が、すましたように尻尾を立てて座っている恰好。よく見かける姿のぬいぐるみだったが、その額に付けられた紋様が独特だったからだ。

 ――赤い渦巻紋様。

 純白の猫に赤の紋様はかなり目立つ。
 その紋様が目に入らなければ、見覚えがあることに気つかなかっただろう。

 それは一週間前のこと。
 通学路の途中の歩道で、僕は一匹の猫のぬいぐるみを拾った。
 純白の額に浮かぶ赤の渦巻紋様がものすごく特徴的なぬいぐるみを。

 そのまま捨ててしまっても良かったが、ちょうど目の前に交番があったので僕はぬいぐるみを届けに行ったのだ。
 交番に入ると、中では一人の女の子が机に顔を伏せて泣きじゃくっていた。
 僕は恐る恐る、女の子の対応をしているお巡りさんに声をかけた。

「あのう、今そこで、これを拾ったんですけど……」
 僕はぬいぐるみを頭の上に掲げる。
 すると、女の子の応対をしているお巡りさんが顔を上げてこちらを向いた。

「ああ、落し物ね。ごめんね、今ちょっと取り込んでいるから。申し訳ないけどそこにあるメモに君の名前と連絡先を書いて、置いておいてくれないかな。後で拾得物の登録をしておくから」
 僕は、カウンターの上に猫のぬいぐるみを置く。そして、メモに書き込むためにボールペンを手に取った。
 お巡りさんは目の前の女の子にいろいろと質問をしているようだった。


 >つづく

第6話 君は「なくなっちゃった……」と泣いた

「なくなっちゃった……」
 お巡りさんの向かいに座っている女の子は、泣きじゃくっていた。
「何を無くしたの?」
「ホタルの大切な、なにかなの……」
 ふうん、あの子の名前はホタルっていうんだ。
「なにかって何?」
「それが何だかわからないの。わからないけど、ものすごく大切なものなの。それを探してほしいの」

 変わった子だな。
 何を無くしたのかわからなければ探しようがないじゃないか。お巡りさんも大変だ。

 ん? もしかしたらあの子が無くしたものってこのぬいぐるみ?
 ちょうどその時、お巡りさんも同じことを考えていたようだ。こちらを指さしながら、女の子に向かって質問し始めた。
「ねえ君、もしかして無くしたものってあの猫のぬいぐるみ?」
「ふえっ? 猫?」
 女の子が振り返り、泣きはらした赤い目をこちらに向けた。
 そして僕と目が合う。

 か、可愛い……。

 柔らかそうな頬にカールした茶色の髪がふんわりとかかっている。その濡れた大きな瞳は、一縷の希望に輝きを増していた。

 僕の胸がドキンと脈打つ。

 涙を隠そうともせず、女の子は猫のぬいぐるみに視線を移す。
 そして残念そうに顔を曇らせた。
「あのぬいぐるみかもしれないし、あれじゃないかもしれない。わからない、わからないの……」
 そして女の子は、再び机に伏して泣き始めた。

 なんだ、あの子のぬいぐるみじゃなかったのか。せっかくあの子と知り合いになるチャンスだったのに……。
 でもあの子が着てるのはうちの高校の制服だぞ。だったら学校で会えるかもしれない。名前もわかったし。

 そんなことを考えながら、メモを書き終えた僕はボールペンを置く。
「じゃあ、ぬいぐるみをここに置いておきますから」
 僕は女の子の対応に必死になっているお巡りさんに一声かけ、後ろ髪を引かれるような気持ちで交番を後にした。


 >つづく

第7話 君は「ちょっと」と言った

「ちょっと」
 突然、女の子に声をかけられ、僕ははっと我に返る。
「なによ、人のぬいぐるみをジロジロ見て。なんか文句あんの?」
 僕はエレベーターの中で、黒ずくめの女の子に睨まれていた。

 そうだ、エレベーターに乗っている時に地震があって、僕達は閉じ込められているんじゃないか。

 しかし、目の前の女の子は交番で見た女の子によく似てる。
 キャスケットで髪はよく見えないが、柔らかそうな頬は瓜二つだ。交番の女の子は眼鏡を掛けていなかったが、目の前の女の子が黒縁眼鏡を外したら案外そっくりかもしれない。

「なに? 今度は私の顔をジロジロ見て。喧嘩でも売ってるつもり?」
 でもこの口調はなんだ? 交番の女の子とは完全に別人だぞ。
 まあ、ダメで元々だ。
 僕は思い切って、目の前の女の子に名前を訊いてみることにした。

「間違ってたら申し訳ないんだけど、君の名前は、もしかしてホタル……さん?」
 すると女の子の顔がみるみる険しくなる。

 やべぇ、間違ってたか? 
 でも反応したってことは、あながち間違いじゃなかったのかもしれないぞ。
 まあ、とりあえずは謝っておくか、と僕が口を開こうとしたとたん、
「ぐぇ。げほっ……」
 鳩尾に強い衝撃を受ける。
 見ると、女の子の蹴りが見事に腹部に決まっていた。

「二度とその名前で私を呼ばないで! あんたが誰だか知らないけど」

 僕は苦しさのあまりエレベーターの床にうずくまった。
「……なんだよ……、いきなり蹴ることは……、ないじゃんかよ……」
 胃液が込み上げてくる。
 僕はエレベーターの壁に背を付けていたので、蹴りの威力が倍増されてしまったのだ。

「あんたが先に喧嘩を売ってきたんでしょ。なによ、もう一回蹴られたいのっ!?」
 そう言いながらファイティングポーズをとる女の子。
 ローアングルから眺める女の子の蹴りは一度は味わってみたいシチュエーションだったが、今は苦しさのあまりそれどころではない。

 ダメだ、この女。完全にキレてやがる。

「ちょ、ちょっと待ってよ……。自己紹介もまだじゃんかよ……。じゃあ君のこと、何て呼べばいいんだよ」
 すると女の子は少し考える素振りを見せた後、僕に言い放った。


 >つづく
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