「それでホタルはこんなことも言ってたでしょ?」
 ケイは、ちょっと意地悪そうな顔をする。
 なんだか嫌な予感。

「ねえ、お兄ちゃん、手を繋いでくれる?」

 だから、その言い方は止めてくれって。
 ホタルを思い出しちゃうからさ。
 
 って、えっ!?

 急に右手に温かい感触が伝わる。
 見ると、ケイが僕の手を握っていた。

「開君の手って、温かい……」
 ホタルの時は、がむしゃらだった。
 不安から解放されるために、手を握ることは必然的な行為だったのだ。
 しかし今のケイは、自分の意思で僕に手を差し伸べてくれている。その証拠に、ケイの手にはためらいが残っていた。

 温かくて小さな柔らかい手。
 ぎゅっと握ると壊れてしまうんじゃないだろうか。
 そう思うと、僕の鼓動はドキドキと高鳴った。

「記憶を取り戻す前は、心がずっとあったたかったような気がするの。開君、ずっとホタルの手を握っててくれたんでしょ?」
「ああ」

 肯定の意を込めて、僕はケイの手を繋ぐ右手に力を込める。
 すると、ケイの手からすっと力みが抜けていくのを感じた。

「本当にありがとう。ホタルのことを大切にしてくれて」
 ケイが握る手に力を込める。
 僕もそれに応じて、彼女の手をしっかりと握りしめた。

 ――手と手で語り合う。

 ドキドキの粒が一つの大きな塊になって、僕の胸を熱くする。
 ホタルの時は一方的に握りしめられてよく分からなかったが、手を握るという行為がこんなにも繊細で、こんなにも豊かな表情を持つことを、僕は初めて知った。

「さっきはゴメン。ひどいことを言っちゃって」
「ううん、こちらこそごめんなさい。何度も蹴っちゃって……」
 いいんだよ、という風に僕はケイの手を握る。
 ケイは恥ずかしそうにチラリとこちらを見ると、ギュッと手を握り返してくれた。


 >つづく