「そうだ、私のキャスケットと眼鏡はどこにあるの?」
 小城山の坂道を降りたところで、思い出したようにケイが訊ねてくる。

「ああ、そうだった。僕が持ってるよ」
 僕はバッグからキャスケットと眼鏡を取り出した。
「ありがとう」
 ケイは僕の手からそれらを奪うと、そそくさと身に着けた。

 あーあ、元に戻っちゃった……。
 ケイの綺麗な髪も、美しい瞳も、黒く邪魔な物に多い隠されてしまった。

 僕はよほど残念な顔をしていたのだろう。
 ケイは恥ずかしそうに頬を赤らめると、甘い声で僕に言った。

「すっごい残念な顔してるよ? お兄ちゃん!」

 ええっ!?
 そ、それって……。

「そんな風に言ってたでしょ? ホタルって」

 なんだよ、ケイの演技かよ。
 ホタルの真似で騙すなんてなんて悪趣味と思ったが、楽しそうに笑うケイを見ていたら気が抜けてしまった。
 今の僕は、さぞかし間抜けな顔をしているに違いない。

「私ね、病院で見たことがあるの。記憶を失った時の私の様子。先生がビデオを撮っててね。私、先生のことお兄ちゃんって呼んでた。開君のこともそう呼んでたでしょ?」
「ああ。ケイには兄貴がいるのか?」
「その逆よ。私、ずっとお兄ちゃんが欲しいって思ってたの。ホタルが男の人をそうやって呼ぶのは、心の奥底の願望が現れている証拠なんだって」

 そういうことだったのか……。
 鼻の下を伸ばしていた僕がバカだったよ。

 僕は、ホタルと街を歩いた時のことを思い出していた。


 >つづく