――ん? まてよ、これはチャンスかも。

 ケイには今、覇気が感じられない。
 それなら、ケイからぬいぐるみの猫を取り上げて、ホタルを取り戻すことが可能かもしれない。

 ――ホタルにまた会いたい。

 僕はこの衝動を抑えきれなくなった。
 だから、ケイに甘い言葉をかける。

「ごめん、ケイ、ちょっと言い過ぎた」
 ケイはうつむいたまま、ぬいぐるみを抱く腕に力を込める。
「ほら、展望台に行こうよ。そこからの景色をホタルに見せてあげたいんだ」
 その言葉にはウソはない。
「ケイの中には、今でもホタルは居るんだろ?」
 僕の問いに、ケイは静かに頷く。
 そして彼女はゆっくりと顔を上げた。

 ケイの頬には、一筋の涙が光っていた。

 表情に険しさを残したまま、濡れた瞳で僕を見つめるケイ。
 ホタルとは違う、凛々しさがそこにあった。

「ホタルが……、見たいって言ったのよね?」
「ああ」
「だったら私も見せてあげたい。だってホタルは私自信なんだもん」
「じゃあ、行こう」
 僕達は展望台に向かって、静かに歩き始めた。

「うわぁ……」
 展望台に着いたケイは、歓喜の声を上げながら手すりに駆け寄る。
「綺麗だろ?」
 遅れてケイに追いついた僕は、彼女の手に目を向ける。
 猫のぬいぐるみをつかむ彼女の手は、無造作に手すりの上に置かれていた。

 ――ごめん、ケイ。ぬいぐるみをちょっと拝借するよ。
 
 僕は心の中で謝りながら、ぬいぐるみに手を伸ばした。


 >つづく