「なんで、私……」
 ケイはポツリとつぶやいた。
「ぬいぐるみを手放しちゃったんだろう。まさか!?」
 彼女は僕をギロリを睨む。

「い、いや、僕は何もしてない。非常階段に出る時に僕の背中にぶつかって、それで落としちゃったんじゃないかよ」
 僕はせめてもの抵抗として、必死に唇を尖らせた。
「ホント?」
「頼むから信じてくれよ」
「非常階段に出るところまでしか覚えてないから、そうなのかもしれないわね。とりあえず信じるわ」

 とりあえずは余計だよ。
 僕はムッとする。

「それから先が大変だったんだぜ」
 どうせケイはホタルの時の記憶が無いんだ。あることないこと付け加えてしまえ。
「ホタルは泣き出して動かないし、僕は誰かに蹴られたせいでトイレで吐きまくったし……」
 そうだよ、僕を何度も蹴ったことを懺悔しろ。
「嘘よ。トイレで吐きまくったなんて嘘。私、そんなに強く蹴ってないもん」
 あれで本気じゃないって言うんですか。
 どんだけ蹴りが好きなんだよ、この人は。

「ホタルが泣いて迷惑をかけたところは否定しないんだな。そりゃ、そうだよな。自分のことだもんな」
「……」
 この口撃は効いたようだ。さすがのケイも黙ってしまった。

「すげえ大変だったんだぜ。泣きじゃくるホタルを説得するのは。というかホタルも被害者なんじゃないのか? 誰かさんは豊富な知識にぬくぬくと囲まれていて、都合が悪くなるとそれを封印してしまう。突然、見知らぬ世界に放り出されるホタルが可哀想だと思わないのかよっ!?」

 ああ、言ってしまった……。
 ホタルが聞いていたら、お兄ちゃんダメって怒られそうだけど。
 ちょっと言い過ぎかと思ったが、ホタルが消えてしまったショックはこれくらいでは晴らせそうもない。

 僕の言葉を静かに聞いていたケイは、黙ったままうつむいてしまった。


 >つづく