「ホタル、何か言った? ぐえっ……」
 突然、腹部に強い衝撃。
 前のめりになりながら自分のお腹を見ると、鳩尾にホタルのブーツがのめり込んでいた。

「私のことホタルって呼ばないで、ってあれほど言ったでしょ!」

 うずくまる僕の目の前に、記憶を取り戻したケイがぬいぐるみを持って仁王立ちしていた。
「……く、苦しい……」
「何よ、その初対面の人を見るような目は。早く非常階段を降りましょ、って、何? ここどこ? どうなってんの?」
 ケイは、キョロキョロと辺りを見回す。
「ちょっと開君、ここどこなのよ?」
 ぬいぐるみを握りしめながら俺に詰め寄るケイ。

 くそっ、失敗した……。
 ホタルが消えてしまった……。

 僕はケイに蹴られた痛みよりも、ホタルが消えてしまった心の痛みに打ちのめされていた。

「あれ、どこかで見たことのある風景……って、ここ、小城山じゃない。なんで私、こんなところに居んのよ!?」
 僕は泣きたい気持ちに包まれながら、腹痛に耐えて言葉を絞り出す。
「……君が来たいって……」
「私、そんなこと言ってない」
「……ぬいぐるみを手放した時の……君が……」
「えっ?」
 ケイが言葉を詰まらせる。
 そして、ためらいがちに言葉を紡ぎ始めた。

「開君。ホ、ホタルに、会ったの……?」
「……そうだよ……。でも、その名前を言ったら……、また蹴られるじゃんかよ……」
「もう蹴らないから教えて。ホタルが言ったの? ここに来たいって」
「……ホタルが街の景色に見とれていたから、もっとよく見える場所に行きたいかって聞いたんだ。……そしたら、行きたいって言うから……」

 街のイルミネーションに瞳をキラキラ輝かせていたホタル。
 また彼女に会って、ちゃんとさよならを言いたい。

「そうよね、ホタルがこの場所を知ってるはずないもんね。安心したわ」
 ケイは、自分がこの場所に居るいきさつを知ってほっとしたようだ。
 お腹の痛みがだんだんと引いてきた僕は、ゆっくりと立ち上がる。

 ああ、これが、あのホタルと同一人物なのかよ。
 僕は中途半端にホタルを失ってしまったことを、心から後悔した。


 >つづく