「お兄ちゃん、どこへ行くの? ホタル、疲れたよ~」
 僕はホタルの手を引いて、小高い丘に続く階段を登る。

「もうちょっとだよ。もっと綺麗な景色が見れるところがあるからさ」
 登り切ったところには小さな公園がある。
 公園の端には展望台があって、絶景とまではいかないが、遠くに輝く東京の高層ビル群が見えるはずだ。
「ほら、あと五段」
「うん、ホタル、頑張る」

 展望台に着いたら、高層ビル街が見えるかな? 
 そしたらホタルも、喜んでくれるかな?
 ビルといえば、今日って完成直前のあのタワーもライトアップしてるんだったっけ?
 と言っても、ホタルにはそんなことわからないと思うけど。

「お兄ちゃん、あと一段だよ」
「ああ……」

 だから、ホタルに教えてあげるんだ。あれが日本一新しくて、日本一高いタワーなんだって。
 ホタルだったらきっと、素直に驚いてくれると思う。

「ねえ、お兄ちゃん、何考え事してるの?」
「うん? ああ、うん……」

 もしかしたら、『お兄ちゃんすごい!』ってホタルが僕の胸に飛び込んで来たりして。
 そしたらぎゅっと、ホタルを抱きしめてあげるんだ。

「お兄ちゃん、お兄ちゃんってば……」
「ん、ああ……」

 二人で一緒に夜景を見て、そして最後にそっとホタルにぬいぐるみを渡そう。
 小さな声で、さよならってつぶやきながら……。

「何よ、お兄ちゃんったら。ホタルのこと無視しちゃって。手にいたずらしちゃうからね」

 そしたらホタルともお別れだ。
 もう一生、会うことはないかもしれないな……。

「あれ、お兄ちゃん何か持ってる。まあ、可愛い猫のぬいぐるみ。ちょっとホタルに貸して。いいよね、お・に・い・ちゃん!」
「えっ、何?」
 そろそろ展望台に着くという頃、僕はホタルに呼ばれて我に返った。


 >つづく