「怖い……」
 非常階段に一歩踏み出すと、ホタルはますます僕にしがみついてきた。

「こんな暗いとこイヤ」
 ケイとは違って、ホタルは極端な怖がりだった。
 でも交番で会った時も、こんな感じだったな……。
「大丈夫、僕がついているから」
「イヤ、イヤ、イヤ。絶対イヤ」
 ホタルは、僕にしがみついたまましゃがみこんでしまった。
 これではラチが明かない。
 仕方が無いので、僕達は一度ビルの中に戻ることにした。

「ごめんね、お兄ちゃん」
 だから、僕はお兄ちゃんじゃないってば。
 というか、本当に僕のことを本当にお兄ちゃんと思っているのだろうか?
 そもそも彼女には兄がいるのだろうか?

 建物の中に入って一息ついたのもつかの間、ホタルはかんしゃくを起こし始めた。
「なにこれ~。ホタル、こんなのイヤ!」
 今まで普通に被っていたキャスケットをつかむと、床に投げつけたのだ。
「これもキライ!」
 次は眼鏡。
 投げ捨てられた伊達眼鏡が、カランカランと音を立てて床を転がっていく。
 
 仕方が無いので、僕は伊達眼鏡を取りに行こうとする。
「いやっ、ダメっ!」
 今度はホタルが、僕の手にしがみついてくる。
 そして泣きはらした目で、僕に懇願した。
「お願いだから、ホタルの手を離さないで……」

 キャスケットと眼鏡を外し、柔らかな頬に軽くカールした茶色の髪がかかるその姿。
 大きな瞳を濡らしながら、じっと僕を見つめている。

 か、可愛い……。

 交番で会ったあの時の女の子が、そこに居た。


 >つづく