「ホタル、怖い……」
 えっ? ホタル?
「お願い、私のこと離さないで。お願い」
 振り向こうとする僕に、ケイは必死にしがみついていた。

 ホタル……ってどういうことだ? 
 あれほどホタルって呼ばれることを嫌がってたケイが、自分のことをホタルと呼ぶなんて……。
 僕は、病気について語ったケイの言葉を思い出す。

『このぬいぐるみの中には私の今週の記憶が収められている』
 
 つまり、ケイの病気の話は全部ホントだったんだ。
 それで、ぬいぐるみを手放した瞬間に、ケイは記憶を失ってしまったんだ……。

「大丈夫だよ、ケイ。僕が居るから」
 僕は、優しくケイに声をかける。
 すると彼女は泣きはらした目を僕に向け、自分のことをケイと呼んでいた時からは想像できないほどの甘い声で僕を呼んだ。
「うっ、うっ……。ホタルは……ケイじゃないよ、お兄ちゃん」

 えええっ、お、お兄ちゃん!!??

「ホタルのこと……、ちゃんとホタルって呼んで……。お兄ちゃん」
「ああ、ホ、ホタル……」
 また蹴られるんじゃないかとドキドキしながら、僕は目の前にいる女の子の名前を呼ぶ。

「とにかくビルの外に出よう」
 ホタルが泣き止んだのを確認すると、僕は彼女に避難をうながした。


 >つづく