「やった!」
 ガタンという音と同時に、ケイが歓喜の声を上げる。
 僕が真相を告げようとした瞬間、エレベーターが動き始めたのだ。

「開君、やった! 動いたよ!」
 喜びはしゃぐケイ。
「ああ、良かった」
 とにかくエレベーターが動き出して良かった。まずはここから出ることが先決だ。正体を明かすのはその後でもいい。
 僕はケイと一緒に、エレベーターの階を表す表示が変わっていくのを喜びを込めた眼差しで見つめ続けた。

 エレベーターは四階で停止した。
 どうやら最寄階に停止するという緊急プログラムが作動したらしい。
「誰も……、居ないね……」
 ドアが開いて廊下に出たケイが、きょろきょろと周囲を観察する。
 どうやら、ビルに居た人達は皆、非常階段を使って避難してしまっているようだ。
「じゃあ、僕達も非常階段で外に出ようか」
 もうエレベーターに閉じ込められるのはコリゴリだ。
「そうね、非常階段を使いましょ」
 ケイも同じ想いだった。

「寒ッ!」
 廊下の突き当たりにある非常階段の扉を開けると、冬の外気が容赦なく建物に吹き込んできた。
 僕は思わず出口で立ち止まる。
「ちょ……」
 ケイは僕の背中に激しくぶつかり、そのまま黙り込んでしまった。

 マズイ。またケイを怒らせちまったか?
 後ろから彼女に蹴りを入れられると最悪だ。階段を転げ落ちちまうぞ。

 僕は、背筋を凍らせながら目の前の階段を見る。
 暗がりでよくわからないが、このビルの非常階段は鉄骨と鉄板だけでできている仮設タイプのようだ。運悪く手すりの隙間を抜けてしまうと、そのまま真っ逆さまに地面に落ちてしまう。
 それは――おそらくきっと死を意味する。
 僕は慌てて近くの手すりを掴んだ。が、後ろのケイには何も動きがない。

 ま、まさか、ものすごーく怒っているとか……?

「ごめん、ケイ。急に立ち止まっちゃって。外がこんなに寒いと思わなかったんだ」
 僕は恐る恐るケイに声を掛ける。
 しかし、やはり何も返答はなかった。
 それどころか、ケイは両手で僕の背中にしがみついてくる。

 えっ、どうしたんだよ、ケイ?
 まさかケイのやつ、高所恐怖症……とか?

 そこで僕ははっとする。
 そうだよ、両手でしがみついたりなんかしたら、猫のぬいぐるみはどうなっちゃたんだよ!?
 ケイの両手は僕の背中から腰に回されている。
 僕は視線を下げて、ケイの両手を確認した。

 も、持ってないぞ、ぬいぐるみを……。

 まさかと思い、首を伸ばして階段から外を見渡す。すると、猫のぬいぐるみ……らしき白い物体が、非常階段の下の地面に転がっているのが見えた。

 げっ、僕にぶつかった時の衝撃で手放しちゃったんだ……。

「ケイ、ケイ、大丈夫か!?」
 僕が後ろを向いてケイの顔を覗き込むと、彼女は泣きじゃくっていた。

 >つづく