「なんとなくわかったような気がするよ」
 僕がそう言うと、ケイは安堵の表情を浮かべた。

「ところで、別の物に記憶が移ったのって、どうやったらわかるんだい?」

 ケイの記憶が一週間ごとに別の物に移る、というのは、なんとなくわかった。
 もし記憶が移るものが変わらなければ、ずっと記憶を失ったままってことだからな。一種の自己防衛機能なんだろう。
 でも記憶が移った物が何なのかわからなければ、その防衛機能も意味がない。

「これよ」
 ケイがぬいぐるみの額を見ながら言う。
「ほら、この猫の額にあるでしょ。渦巻紋様」
 まさか、あの渦巻紋様が記憶のある場所を示すインジケーターなのか!?
「これが記憶の在り処を示す紋様なの。医学的には説明できないことらしいんだけど、この紋様のおかげで助かってるわ」

 そりゃ医学では説明できないだろう。
 記憶が移ったと思い込むことは医学的にも説明できそうだが、記憶が移ったものに紋様が表示される能力があるなんて聞いたことがない。

「ちょうど一週間前だったわ。近くのお店でこのぬいぐるみを見かけて、可愛かったからつい手にしちゃったんだけど、そのとたん、猫の額にこの紋様が浮かび上がった。記憶がぬいぐるみに移った証拠よ。あちゃー、やっちゃったって感じ。仕方が無いから買ったわ」
 その猫のぬいぐるみ、最初から赤の渦巻紋様があったわけじゃなかったのか……。
「よりによって純白のぬいぐるみとはね。最悪だわ」

 純白だと困ることでもあるのか? 
 まあ、黒ずくめの恰好に似合わないことは明らかだけど。

「私、なんで黒色のものばかり身に着けているかわかる?」
 ケイは、少し意地悪そうな表情を見せる。

 そういう言い方をするということは、ファッションで黒ずくめにしているってことじゃないんだな。

「記憶が移る時ってどれに移るかわからないでしょ? それで記憶が移ったものは一週間身に着けてなくちゃいけない。だから、汚れが目立たないように黒ばかり身に着けているのよ」
「それは大変だな」
「そうよ。以前、靴下に記憶が移ったことがあった。あの時は最悪だったわ。一週間、誰にも会いたくなかった……」
 うーん、確かに。一週間目は最悪だろう。お近づきにはなりたくない。
「それに比べて髪留めとか眼鏡の場合は楽なの。ずっと触れていられるし、手で持って拭いたりできるし」
 間違って机に置いたりすると最悪だけどな。
「でも渦巻紋様が表示されるんだろ? 眼鏡のレンズに渦巻紋様が現れたらどうするんだよ」
 それはコメディだ。ちょっと見てみたい気もするけど。


 >つづく