「さっき、ケイは『一週間分の記憶』って言ってたよな。それってどういう意味なんだ?」
「ああ、そのことね」
 ケイは面倒くさそうに説明を続ける。

「私の場合はね、困ったことに、記憶が移ってしまうものが一週間くらいで変わってしまう」
 えっ、それってどういうこと?
「先週はこのキャスケット、その前の週は髪留めだった。そんな風に、その時に触れているものに記憶が移っちゃう。一週間ごとにね」

 そりゃ、面倒くさそうだ。
 ざまあみろ、じゃなかった、一応同情しておいてやるぜ。

「でもそれって、記憶が移動する物が一週間ごとに変わるって話だろ? それでその時触っているものに記憶が移ってしまう。だったら『一週間分の記憶』ってのはちょっと違うような気がするんだけど」
「それはね……」
 ケイは深くため息をついた。

「例えばね、このぬいぐるみを無くしたとする。そしたら今週分の記憶が無くなっちゃうのよ」

 と言われても、まだよくわかんないんだけど……。
「なんかまだわからないって顔してるね。いい? 順番に説明するよ」
「頼むよ」

「まず、このぬいぐるみを無くしたとする。すると、そのとたん私は記憶を無くしてしまう。重度のセスなんだから、それはわかるよね」
「ああ」
 まあ、そういう風に思い込むという病気なんだから、そうなっちゃうんだろう。
「それでね、ぬいぐるみがそのまま見つからない場合なんだけど、私がはっと気が付くと翌週になっちゃってて、その時にはもう別の物に記憶は移ってる。正確には、別の物に記憶が移ってくれたから意識を取り戻すことができたって感じなんだけど。そうなっちゃうと、前の週のことをいくら思い出そうとしても全く思い出すことができないのよ」
 ふーん、それは難儀だな。
「だから、このぬいぐるみの中には私の今週の記憶が収められている。私にとってはそんな感覚なの」

 膨れたケイの顔からは、僕に対する敵意が薄れているような気がした。


 >つづく