「くっ……」
 ケイは防犯カメラの方をちらりと見ると、観念したように僕の方を向く。形勢逆転だ。

「よっこらしょっと」
 僕がゆっくり立ち上がると、ケイは恐る恐る口を開いた。
「どうしようというの?」
「どうもしないよ。さっきも言っただろ。エレベーターの中の様子は記録されてるんだ。君に手を出したりしたら僕の方が捕まっちゃう」
「じゃあ……」
「そうだな。蹴られた分だけ僕の質問に答えてほしい」

 僕には知りたいことが沢山あった。
 ケイがホタルと呼ばれたくない理由、交番の少女との関係、そして猫のぬいぐるみの秘密。

 ケイは少し考えた後、静かにうなずいた。
「わかった……」
 僕はまた右手をケイに差し延ばす。
「挨拶のやり直しだ」
「ぬいぐるみを取ったりしないよね?」
「ああ、そんなことはしない。撮影されてるからね」
 するとケイはおどおどと右手を差し出した。

「僕は尾瀬開。針葉高校の三年生。開って呼んでほしい。よろしく」
「私はケイ。私も針高の三年よ」
 ためらいがちに僕達は握手をした。


「じゃあ、最初の質問」
 僕が切り出すと、ケイがゴクリと唾を飲み込む。

「ケイはさっき、エレベーターのマイクに向かって言ってたよね、病気だって。それって大丈夫なのか?」
「……」
 僕が尋ねると、ケイは黙り込んでしまった。
「いや、あの、初対面の人にそんなことを聞くもんじゃないと思うけど、ほら、今僕達ってエレベーターに閉じ込められて一種の非常事態だろ? 何かあったら対処しないといけないのは僕じゃん。だから最初に聞いておこうと思って……」
 するとケイは少し考えた後、意を決したように病名を僕に告げた。


 >つづく