「あんた泥棒ね」
 蹴られた腹を抱えてうずくまる僕を見下すケイ。
「人のものを盗ろうとした罰よ。そこでうずくまってなさい」

 チクショウめ。
 こうなったら口で勝負するしかない。
 彼女もなかなか手強そうだが負けるもんか。

 僕はケイを見上げながら、不敵な笑みを浮かべた。
「無駄に叫んだと思ってるのか? 僕は見たぞ。『隙あり』と叫んだ時、君がぬいぐるみを左手でしっかりと抱きしめたのを」

 するとケイは顔を引きつらせながら、猫のぬいぐるみを体に引き寄せる。
 それは、絶対に手放してなるものかと言わんばかりに。

「ほら、今もそうだ。『隙あり』という僕の言葉に、君は無意識のうちに一番大切なものを守ったんだよ。それがどういうことだかわかるか?」
「……ッ」
 ケイが身構える。
「それはつまり、そのぬいぐるみが君の弱点ということだ!」

 完璧な理論。
 でも、論理の展開がなんか変な方向に行っちまったけど。
 自分で言っておきながら、ぬいぐるみが弱点とはどういうことなんだよ?

 すると、ケイはすかさず言い返す。
「ふん。それがわかったところでどうなるのよ。エレベーターが動いたら警察を呼ぶわよ」

 えっ、まさかのビンゴ? 
 ホントにぬいぐるみが弱点ってこと?

 僕は驚きながら反論する。
「警察が来ると困るのはケイの方じゃないのか? 僕は一方的に蹴られてるだけだからね。防犯カメラがそれを証明してくれると思うけど」
 そう言って僕はエレベーターのスイッチ類の上を見る。
 そこにあるのは大きめの黒いプラスチックのパネル。あの奥に防犯カメラがあって、エレベーター内の様子が撮影されているはずだ。


 >つづく