「なくなっちゃった……」
 お巡りさんの向かいに座っている女の子は、泣きじゃくっていた。
「何を無くしたの?」
「ホタルの大切な、なにかなの……」
 ふうん、あの子の名前はホタルっていうんだ。
「なにかって何?」
「それが何だかわからないの。わからないけど、ものすごく大切なものなの。それを探してほしいの」

 変わった子だな。
 何を無くしたのかわからなければ探しようがないじゃないか。お巡りさんも大変だ。

 ん? もしかしたらあの子が無くしたものってこのぬいぐるみ?
 ちょうどその時、お巡りさんも同じことを考えていたようだ。こちらを指さしながら、女の子に向かって質問し始めた。
「ねえ君、もしかして無くしたものってあの猫のぬいぐるみ?」
「ふえっ? 猫?」
 女の子が振り返り、泣きはらした赤い目をこちらに向けた。
 そして僕と目が合う。

 か、可愛い……。

 柔らかそうな頬にカールした茶色の髪がふんわりとかかっている。その濡れた大きな瞳は、一縷の希望に輝きを増していた。

 僕の胸がドキンと脈打つ。

 涙を隠そうともせず、女の子は猫のぬいぐるみに視線を移す。
 そして残念そうに顔を曇らせた。
「あのぬいぐるみかもしれないし、あれじゃないかもしれない。わからない、わからないの……」
 そして女の子は、再び机に伏して泣き始めた。

 なんだ、あの子のぬいぐるみじゃなかったのか。せっかくあの子と知り合いになるチャンスだったのに……。
 でもあの子が着てるのはうちの高校の制服だぞ。だったら学校で会えるかもしれない。名前もわかったし。

 そんなことを考えながら、メモを書き終えた僕はボールペンを置く。
「じゃあ、ぬいぐるみをここに置いておきますから」
 僕は女の子の対応に必死になっているお巡りさんに一声かけ、後ろ髪を引かれるような気持ちで交番を後にした。


 >つづく